散弾銃でヒグマは倒せるか、、の件
どうも。豊です。
Twitterで微妙に反応が多く、また反論も多かったのがこの話。どこぞの非ハンターがツイートしてバズってたものを全然別で回答してみたらこんなことに。。
ま、それはさておき、ツッコミや議論等が起きた話について詳しいところを今回は書いてみようと思います。
私の「護衛」の時の装備は?
私が護衛(山仕事をする人を熊から護衛する業務)に行くときは、散弾銃(上下二連)にDUPOという非鉛弾を持っていってます。
理由は、
- 近距離だとライフル等よりも散弾銃の一発弾の方が強い
- 上下二連であれば比較的軽く折ると持ち運びがしやすい
- 自分はクレー射撃で撃ち慣れている
- 折っていれば「絶対に弾が出ない」し、そのことを周囲もぱっと見で認識できる安全対策
- もし威嚇弾を撃つ場合、散弾のバラ弾を足元に撃つため(法的に厳密には撃てない)
などの理由で、このような装備にしています。
ライフル/ハーフライフルを持って行かない理由
実際に護衛に行って複数人で一現場を見るとき、他の人も大体7〜8割ぐらいは散弾銃を持ってきているように私は認識しています。理由は様々ですが、ヒアリングした内容をまとめると以下のような感じ。
- スコープをぶつけたくない(狂う、壊れる
- ライフルを傷つけたくない(狂う、高価だからなど
- 重い(護衛は山歩きが多く、精度の高いライフルは散弾銃より一般的に重い
- 近距離だと弾が抜けて効かないことがある(超ベテランの経験
などの理由で、どちらかと言えば散弾銃の方が好まれ、ベテランでライフルを持ってくる人は、比較的強い弾(マグナム弾など)が撃てるマウンテンライフル(比較的軽い)にスコープをつけないオープンサイトで持ってきてる感じ。スコープ付きのものは見たことがありません。ぶつけて壊した話は聞きますが。。
近距離と遠距離の違い
護衛の場合、狩猟とは違い、遠くにいるクマを撃つことはなく「近距離」まで襲いかかってきた時に「やむを得ず」ぐらいにならないと撃ちません。
一般的なイメージとしては、散弾銃は鳥などを撃っていて、ライフルは狙撃しているから、ライフルの方が威力があるのでは、と考えている方は多いとおもいますが、基本的に散弾銃にスラッグ弾(1発弾)を使えばライフルより威力が大きいです。(運動エネルギーは3倍から10倍程度あります)
ただ、散弾銃は遠距離になると命中精度が低く「当たらない」し、初速が遅いため距離に対しての減速がライフルに比べ大きくなるため、100m以上になる狩猟時は圧倒的にライフルが有利になります。
つまり「強さ」は散弾銃(スラッグ)で、「距離」がライフル、と言う感じ。
弾が抜けて「効かない」?
これはエゾシカなどでも起きるんですが、弾が当たって、それが「致命傷」にはなっていたとしても、すぐに死なないんですよね。致命傷でも数秒から長いと数日間生きてるし活動します。逆に、致命傷でなかったとしても、「失神」の状態になって動きが止まってくれれば、止めさし入れることができ、問題ないわけです。(普通ありませんが)つまり、現場にいるハンターは「致命傷か」ということより「止められたか」の方が大事になるわけです。
「止まるまでの時間」が速ければ「効いた」と感じますし、全く止まる気配がなければ「効かない」と感じます。特にヒグマが「向かってきた時」などだと、弾は致命傷であるかよりも「効いているか」が重要ということです。
これは私の経験上での話になりますが、エゾシカの致命傷的中場所と止まるまでの時間をまとめるとこんな感じです。
- 脳・頚椎:瞬時
- 太い動脈・心臓:数十秒〜数分
- 肝臓:数十分〜数時間
- 腸、その他臓器:数日
- それ以外の箇所:数週間で衰弱
ヒグマは私の持っている情報は少ないのですが、大体エゾシカの3倍〜10倍くらい強いようなので、少なくともエゾシカより「止まりにくい」し、全く効いていないように見えたら、「抜けた」と感じるほどだと言うことになります。
また、ヒグマは筋肉で出血を止めてしまうこともあるようで、効きの悪いあたりどころの場合、「当たっているのに血も出ていない」と言うようなこともあります。
弾が「開かない」ことで「抜ける」ことも。
通常弾が通過した部分以外にも衝撃波によって大きくダメージが入るのですが、鉛弾などは衝撃で潰れたり、狩猟装弾の「弾頭形状」がホローポイント(もしくはソフトポイント等)形状が、衝突時に花形に「開く」ことで、弾の動きに「ブレーキ」をかけるような働きをします。この時、弾が「前に進もう」とする力が押さえつけられ、その分のエネルギーが「衝撃波」に変換されるので、内部に大きなダメージを与えることができます。この時の弾を「止めようとする力」を一般的に「ストッピングパワー」といい、これが強いと与えるダメージ(≒殺傷力)が高いと言うことが言えます。
※北海道は鉛弾が禁止なので銅弾になりますから、基本的にはホローポイント弾(やソフトポイント等)を使います。
ですがこの弾頭がまれに「開かない」ことがあり、この殺傷力が発揮できていない状態の「当たったのに開いていない弾頭」を私自身も何度かみたことがあります。
弾頭が潰れない/開かないと、ストッピングパワーが発揮されず、「突き抜ける」だけになってしまい殺傷力が大幅に下がります。これも「抜け」と感じられる現象の一つとして挙げることができると思います。
ちなみに、現時点で私が知っている限りで考えうる原因は
- 弾自体の不良(加工不良等でうまく荷重が掛からなかった
- 横転弾(射入角がずれていてうまく開かなかった
- 対象までの距離が近すぎた(ライフル弾は50m付近までは真っ直ぐ向いていない説がある
おそらくはこれのうちいずれかの原因で「開かない」と言う現象が起き、このことによって本当に突き抜けるだけの「抜け」が発生する可能性もあると言うことです。
「効く」とはどこにダメージが入ったことなのか
「致命傷」と言うのは「ほっとけばそのうち死ぬ」なわけですが、「効く」つまり「瞬時に動かない」状態になる時というのは、実際どこにダメージが入った時なんでしょうか。
これは「筋肉」でもなく「呼吸器、循環器」でもない、「神経系統」を破壊もしくは機能不全にしたときであり、脳自体か、脳からくる体への「動く」指令を遮断することで、「動く」ことができなくなるわけです。つまり、これもしくはこの周辺にダメージが入ってないと瞬時には止まらないんですね。
よくある誤解で、警察や軍隊などの映画等で、対人の場合「心臓」を狙っていると思っているパターン。「心臓」に当てるとすぐ「死ぬ」から、警察や軍隊等は心臓を狙うと思っている人も多いと思うのですが、上記にもある通り、心臓に穴が空いても数秒は動くことができます。人間であっても心臓に当たっただけであれば「撃ち返す」ぐらいの間はまだ動けるんです。つまり、防衛のために心臓を撃っても、それだけでは自分もやられてしまうんです。
実際はその裏にある「背骨」を狙っていて、背骨近辺を弾丸が通る時に起きる衝撃波によって、脊椎から神経系等にダメージを与えることができた時、初めて「瞬時に無効化」できるわけです。人型の的も「心臓(左寄り)」ではなく「中心」を狙うようになっていますよね。
ヒグマをはじめとした動物は基本同じで、「脳」もしくは「背骨」にダメージが入れば「効く」わけで、その経路を「破壊」すれば「即倒」するし、その経路を破壊できなければ、一定時間「反撃」ができると言うことです。
「反撃」の可能性があるヒグマに対しては、「致命傷」より「効く」ことの方が重要になるわけです。
ヒグマの場合は頭を狙えない
ヒグマの場合、頭蓋骨の正面から撃つと、「目と目の間」の部分の骨が思ったより傾斜していてしかも相当分厚いため、弾が弾かれて効かないことがあります。
これはヒグマの写真等ではわかりにくいんですが、頭蓋骨を見るとわかると思います。人間の顔のように平べったいわけではなく、少し前に尖った形をしているので非常に弾かれやすいんですね。
なので、私は「ヒグマは顔を撃つな」と教わりました。
じゃぁどこを撃つのか。
檻などに閉じ込めている場合は横から首や首の付け根、「目」など、狩猟の場合は横向きの首〜バイタル(肺、心臓)で、首(頚椎)にあたれば即倒させられる、と言う感じ。
ただ、正面からこちらに向かってくる時は、正直撃つところがないんですね。
で、この場合は、ヒグマは大体20mぐらいまで近づいてきたら必ず一度「立ち上がる」から、「ど真ん中」を撃て、と教わりました。
怖いよ(笑
ただ、これらのことを知っておかないと、クマに「襲われる」ときに「身を守るための発砲」ができず、「無駄弾」を撃つだけで襲われてしまう確率が高いと言うことです。
※知らずにやってる人も多いです。
参考:銃ごとの「威力」順位
襲ってくるクマに対して、近距離(50m以内)として限定すると、一般的に知られる銃を並べるとこんな感じになります。
- 散弾銃 × スラッグ弾
- ハーフライフル × サボットスラッグ弾
- マグナム弾が撃てるピストル
- ライフル
- 散弾銃 × 散弾
- 口径が小さいピストル(警察官が持ってるようなやつ、効かない
銃が近距離の威力に影響するのは、「口径」「銃身長」「火薬量の多い弾を撃てるか」の3つ。この他、弾の方の材質や形状等が影響してきます。
そして長距離(100m以上)の場合は、「命中精度」「到達時の弾丸速度」も影響してくるので、
- ライフル
- ハーフライフル × サボットスラッグ弾(当たるが、狙ったところに当たるかは微妙
- 散弾銃 × スラッグ弾(あまり当たらない
- マグナム弾が撃てるピストル(まず当たらない
- 散弾銃 × 散弾(届かない
- 口径が小さいピストル(まず当たらない、効かない
と言う感じで、長距離の場合はライフル1強と言う感じ。ハーフライフルは精度がいいとは言え、うまくても100mでソフトボール大、150mでバスケットボール大ぐらいの誤差がありますから、遠距離だと半矢にしてしまう可能性が高く、近距離はスコープが邪魔なので、ヒグマ撃ちには適していないと私は考えています。
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